『 お手をどうぞ ― (1) ― 』

 

 

 

 

     ズズズ ・・・ カタン。  

 

音響機器が スムーズに壁に収まった。

「 ・・・っと。 これでちゃんと音が出れば 完了さ 」

ジョーは パン と手を叩いた。

「 ありがと〜〜 ジョー。  これって・・・ CD? 」

「 基本はね。 リモコンに博士がちょいと手を加えてくれて 

 きみの手のジェスチャーで 動くんだって。 」

「 え〜〜 そうなの?? すっご〜〜い 」

「 上手く動くかな〜〜 ちょっと試してみて? 」

「 え  いいけど ・・・ どうやるの? 」

「 まず 電源on。 そしてね 一枚目の最初からってときは

 こう〜〜 だって 」

ジョーは 音響機器の方へ 人差し指を立ててみせた、

「 え いち! ってやるの? 

「 ウン。 やってみて〜〜  きみにしか反応しないんだって 

「 まあ ・・・ えっと  はい! 」

 

  ! 〜〜♪♪  ♪♪ 〜〜

 

微かなスイッチ音とともに ゆったりした音楽が流れだす。

 

「 うわあ〜〜  ふふふ プリエしちゃう〜〜 」

フランソワーズは 壁に取り付けた真新しいバーに駆け寄ると

音に合わせて バー・レッスンを始めた。

「 ふうん なかなか いい感じだね 

 なあ 4曲くらいとばしてみてくれる 」

「 え・・・ だめよ 順番にやらないとレッスンになりません。 

 はい 次はタンジュ〜〜 」

「 あのう ・・・ 今はレッスンタイムじゃなくてぇ

 音響機器のテスト なんですけど 」

「 ・・・ あは ごめんなさ〜〜い 

 あ〜 素敵ねえ〜〜  じゃあ 思い切って ラスト! 」

「 え いきなり最後? え・・・っと・・・ ああ 拍手三回だって。 

ジョーは手元のメモをチェックしている。

「 拍手? 普通に ぱん ぱん ぱん でいいのかしら 」

「 ・・・ みたい。 あんまし速くはダメだって。

 普通に三回 だってさ 

「 ふうん ・・・? 」

 

  ぱん ぱん ぱん。  小気味いい音が響く。

 

 !  〜〜〜♪♪♪  ♪♪♪

 

勢いのよい三拍子が 流れ始めた。

 

「 あら〜〜〜 いいわね!  ふんふん・・・

 よおし ・・・ 」

 

さっと端に寄ると 彼女はダブル・ピルエットをし おおきなジャンプの多い

振りを 踊り始めた。

地下の空間に しなやかな身体が優雅に羽ばたく。

 

「 うわ ・・・・ お ・・・  すげ・・・

 ジャンプしてるんだけど  鳥か蝶が飛んでるみたいだ ・・・ 」

ジョーは音響機器をチェックするのを完全に忘れた。

彼は ただ ただ 目を見開いていた。

「 ・・・ 踊る って  こういうコトなのか ・・・ 

 ひゃあ ・・・ すっげな〜〜〜

 なんだってあんなに回れるんだ???  

 足に推進剤でもはいってるんじゃないのか??

 −−−  うわ〜〜〜〜  」

 

思いがけず 彼女は大きく跳んだ。

進路はどうみたってジョー向かって直進だ。

彼は あわててスタジオの端に避難した。

 

「 ごめん〜〜〜 邪魔して・・

 ・・・ なんか ずっと宙に浮いてない ・・?

 いや ちゃんと足音、するもんなあ ・・・

 ああ この曲にぴったりの動きだ ・・・  おわ?? 

 

彼のほぼまん前で 片脚をいっぱいに伸ばし〜〜〜 ふ・・・っと

彼女は宙に跳び 方向転換をした。

 

「 え! う ・・・っそ・・・

 ど ドルフィン号だって こんなに急に180度反転 なんて

 できないぜ?? 

 ・・・ あ そうか。  生身のニンゲンだから できる? 」

 

踊り子は 中央まで戻ると 速いテンポの曲に合わせ

片脚を軸に 反対の脚を曲げたり伸ばしたりしつつ

くるくる くるくる 回り始めた。

 

「 ?? ど どうなってるんだ??

 スケートのスピン とも違うよな?

 だって ちゃんと視線が決まってるし・・・

 なんで〜〜〜 どうして目が回らないんだ??? 」

 

 〜〜〜♪♪ 小気味のいい音楽の終わりと共に

彼女はちょいとこじゃれたポーズを決めた。

 

 「 ・・・ は ・・・ あ〜〜〜〜〜  ふう・・・

 あは  ・・・ いきなり踊ったから   ふう〜〜  」

姿勢を崩すと 彼女は膝に手をつき大息と吐いている。

 

「 す ・・・ げ・・・・

 フラン ・・・ きみって 魔法使い・・・? 」

気後れし なんだか近寄ってはいけないみたいな気分で

ジョーは 隅っこからこそ・・・っと声をかける。

「 え?  なあに 」

「 ・・・え あ あのう〜〜 その ・・・

 すごいなって ・・・ 」

「 あらあ ぜ〜〜んぜん。 

 ポアント履いてないから 随分省略しちゃったしね〜

 ・・ はあ〜〜 ああ でもちゃんとやらないとダメだわあ 

「 ちゃんと・・・って ・・・ ちゃんとやってなかった の? 」

「 ええ。 マーキング半分ってカンジかな。

 ああ でもここの床、すてき! すごく いいわ。

 ちゃんとこう〜〜 跳ね反ってくるもの。 

     トン トン  ―  彼女は足踏みをする。

「 え?? 別にそのう・・・ トランポリンにはしてない けど 」

「 あ そういうコトじゃなくてね・・・

 床下に少しでも空間があると 足に床が優しいのよ。

 そうそう 音もいいわね〜〜〜  」

「 え?  お 音・・・ あ! 音質チェックするの、

 すっかり忘れてた ! 」

「 あらら  あ でも大丈夫だと思うわ。

 いい音だったもの。  ここは案外天井が高いからよく響くのかも  」

「 そ そう・・・? 」

「 ジョー どうもありがとう!

 地下の物置部屋が すっかり立派なレッスン室になったわ〜〜

 わたし すっごく嬉しい! 」

「 あは・・・ ぼく、きみの依頼通りにやっただけで・・・

 床の高さを上げるって 意味、わかんなかったし。 」

「 あ ごめんなさい ちゃんと説明しなくちゃだめよね。

 床の下がすぐにコンクリートだったりすると もう固くて固くて・・・

 踊ってて足だけじゃなくて頭痛までしてくるの 」

「 へ え・・・・ 」

「 床の上に厚いリノを敷く場合もあるけど・・・

 わたしは やはりこういうフローリングが好きだわ 

「 ふうん ・・・ よかった〜〜 気に入ってくれて 

 ぼく 専門的なことはわかんないから不安だったんだ  」

「 あら わたしだって音の装置については全然・・・

 リモコンじゃなくて ジェスチュアに反応するなんて 最高!

 さすが博士だわ〜〜 」

「 ・・・ いや 単に博士のシュミって感じだけどね 」

「 いいの いいの・・・・

 ふふふ ・・・ ウチにレッスン室 なんて もう〜〜夢みたい・・・

 ああ好きなだけ踊れるのね 」

 

  〜〜〜♪  もうご機嫌ちゃんで彼女はまたくるりくるり・・・

回転を始めた。

 

「 ・・ あは  ・・・ なんかすごく自然だね

 蝶々か小鳥が飛んでるみたいだ ・・・ 」

回る度に 金色のアタマが照明を受け違った輝きを放つ。

しなやかな腕が 緩い曲線を描く。

 

     ・・・ き ・・・れいだなあ ・・・

     ああ いい笑顔だ ・・・

     めっちゃ楽しそう 

     こんな笑顔、 初めて見るかも なあ 

 

     そっか  これが彼女自身 なんだな 

 

隅っこに退きつつ ジョーはほれぼれ・・・彼女を見つめていた。

 

 

「 そうだわ  ねえ ジョー お願いがあるの 」

不意に動きを止めると フランソワーズは彼をじっと見た。

「 え?? な なに ・・・ 」

「 ちょっとここに立っててくれない? 」

彼女は 自分のすぐ側を指す。

「 ・・・ え  こ  ここ? 」

「 ええ そう。 ここにしっかり立って そして 

 手を出してくださる? 」

「 ?? 手 ・・・?  」 

「 そうよ。 」

「 だ 出す って どういうふうに・・・ 」

「 あ〜 え〜とねえ ・・・ う〜〜ん

 あ ワンちゃんに お手! ってする時みたいにして 」

「 ???  お お手? 」

「 そうそう あんなカンジにやってくれる 

「 ・・・? ・・・ 」

ジョーは 首をひねくりつつも  そ・・・っと 右手を前にだした。

 

    ぽふ。   わん ・・・

 

「 !?  あ〜〜 ちがうの ちがうの〜〜

 ワンちゃんになるんじゃなくて。 目に前のワンちゃんに

 さあ お手!  やってごらん?  っていう風にしてよ 」

「 ・・・ あ ああ そうか   ・・ はい。 」

ぎこちな〜〜く 右手が差し出された。

「 あ いいわ そんなカンジ  ええ もうちょっと高く・・・ 」

「 う  うん 」

「 そのままでいてね〜〜  」

急に 数歩離れ ―  す す ・・・ 軽くステップを踏み近寄ってきた。

 

「 ?  え あ  う うわ?? 」

「 ジョー うごかないで  手 出してて! 」

「 え え え〜〜〜 」

 

   す。 彼女は右手を彼の手に重ねると 身体を少し前に倒し・・・

片脚を高々と上げた。

二人の接点は 手 だけだ。

 

「 ?? う うわ・・・・? 」

「 うごかないで!  手 そのまま〜〜 」

「 は  はい  ・・・ うわ ・・・ お おも ・・・! 」

 

   ぐ・・  彼は必死で右手の位置を保った。

 

いかにサイボーグとはいえ 不意打ちだったので揺れてしまう。

 

「 ・・・ う〜ん ・・・ ねえ もう一回 いい? 」

「 い いい けど ・・・ すごい力・・・ 」

「 あら そんなに? 」

「 うん・・・ なんかいつものきみの二倍くらいの重さ、

 感じたよ〜〜  」

ジョ―は しきりに右手を振っている。

「 あ〜〜 ダメねえ わたし ・・・

 そんなにサポ―トの手に頼っちゃだめなのに 」

「 え どういうこと??

 今 ぼくの右手が きみの体重を支えてたんだろ ? 」

「 それじゃ だめなのよ。

 わたしは自分一人で バランスを取ってパンシェ アラベスク〜 を

 できなくちゃダメなのよ。 」

「 え  一人で??? 自力だけでさっきのポーズは無理だよ 」

「 だけど ね〜〜 

 うふふ ・・・ M先生はいいました 支え手はただの添え物だと思えって。」

「 ??? なに それ。 」

「 うふふふ・・・ バレエ漫画より、ってこと。

 ホントにね、こう〜〜 全体重を掛けちゃ ダメなの。

 あ〜あ ・・ わたし すっかり パ・ド・ドウ の基本を

 忘れてしまってるわ〜〜 」

「 ぱ・・・?  なに?? 」

「 あ 二人で、つまり男性と組んで踊るっていうこと。

 次の舞台で ちょこっとだけど パ・ド・ドゥ があるのね〜 」

「 ふうん それで練習? 」

「 そ!  忘れてます じゃ済まされないもの。

 仕事なのよね 仕事! 」

「 そっか 本気ってことだね。 」

「 はい〜〜  このレッスン室、本当に嬉しいわ!

 ジョー ありがとう! 」

「 え ・・・ そんなぼくはなにも ・・・ 」

「 ううん! 気付いてくれたのは あなただわ、ジョー 」

「 あ  そ そうかな〜〜 」

ジョーは 一人で赤くなり どぎまぎしていた。

 

 

 ― 改築計画 ・・・

 

そもそものキッカケを作ったのは ジョー自身だった。

その日 彼はいつもより早い時間に帰宅した。

編集部の取材が 予想より早期に終了後、現地解散になったのだ。

 

雑誌社のカメラ部門の助手として採用された後、

ジョーはその特殊な身体能力を生かし 悪く言えばキワモノ、

危険な場所、不可能に近い場所の撮影などで活動していた。

本来の紙媒体の雑誌より オンライン・ページ に作品を掲載、

それなりに評判はとったりしていた  が。

 

   う〜〜ん ・・・でもさ これって。

   なんかフェアじゃない気がする・・・

 

   写真そのもので 勝負したいな。 

   ・・・ でも 基本もなんも知らないし

 

   だけど 今のままじゃ ・・・

   そのうち飽きられる。

 

   やっぱ 写真、好きだし。

   ― 王道 ってやつ、行きたい な

 

   ・・・ できれば ササキ先生に

   きちんと助手で 使ってもらえれば・・

 

ササキ先生 とは 編集部で主たる写真を担当している、

フリーのカメラマンだ。

出版された何冊もの写真集は 根強い人気があり年数が経っても

重版が続いている。

 

   ・・・ ササキ先生からみれば

   ぼくなんか 邪道 だよなあ・・・

 

   う〜〜〜ん ・・・ 

 

ジョーも最近 自分の方向 を探っているのだった。

 

 

 

  カチャン ・・・ 玄関のドアが静かに開いた。

 

この邸のセキュリテイは鉄壁であるが

住人・登録人については ごく自然に当たり前に ゆるりと対応する。

ドアを開ければ  ぶわッ!!  空気が動いている。

 

「 ただいま〜〜〜   おわ???!! 」

 

    シュ ・・・ !  

 

彼の目の前で 彼女が高々と片脚を上げているのだ!

なぜか 作り付けのクロゼットの取ってを 握っている。

 

「 う うわ???  な なんなんだ〜〜〜〜 」

「 ・・・ あ  ジョー。 お帰りなさ〜い 」

フランソワーズが姿勢は変えず でもにっこり・・・・

笑顔を向けてくれた。

「 た た ただいま ・・・ うひゃあ〜〜

 れ レッスン? ・・・ ここでやってるの? 」

「 あ ごめんなさい ・・・ 邪魔よね 」

「 謝る必要。ないよ。 でも どうして 」 

「 ・・・ 大きな鏡があるのって ココだけなんだもの 」

「 か かがみ ? 」

「 そうよ ほら ここ 」

「 ああ・・・ 」

彼女は 磨き上げられた鏡を指した。

玄関ホールの奥には 作り付けのクロゼットがあり

その隣には 大きな鏡が嵌め込まれていた。

 

出掛ける時など お洒落なグレートや 身だしなみに気を配るピュンマが

いつも しっかり鏡でチェックしていた。

 

   おわ?  鏡・・・?

   ・・・ へえ〜〜〜 

   うひゃ でも なんか照れるな〜〜〜

  

 

ジョーは チラ・・・っと見る程度、いつしか鏡の存在に慣れ

でも利用することはあまりない。

その大鏡を 彼女はしげしげと見つめているのだ。

 

「 あ  あのう〜〜 レッスンに 鏡って必要 ・・・? 

「 そうなの。 自分のポーズが正しいか きちんとした角度で

 脚が上がっているか アームスの位置が正しいかチェックするの。

 まあ いってみればそのチェックがレッスンかもね 」

「 へ え ・・・ 」

「 それにね〜〜 目線って大切なの。

 回転する時には 首を返さないとね〜  」

「 く く 首を かえす??? 」

「 そ。 その時もしっかりアイ・ポイントを決めておくの。 」

「 ふうん・・・・ よくわかんないけど・・・

 あ でも きみがレッスンするには鏡が必要ってことか 

 あと その取っ手も必要? 」

「 取っ手?  ・・・ ああ これね。

 ふふふ  これしかないから ここに掴まっていただけよ。

 本来なら バ― があるでしょ 」

「 あ の 横についてるヤツ? 」

「 そう ね  空間があるだけでも 嬉しいんだけど 」

「 鏡のある空間かあ〜〜 う〜〜ん 

ジョーは 腕組みをし、なにやら考え込んでいる。

「 どうしたの ジョー 

「 う〜ん ・・・ ここは やたらスペースあるから さ。

 どこか きみのレッスン室にできる かなあ って。 」

「 え そんな  いいわよ 

「 だってさ いつも玄関ってわけにもいかないし・・・

 ぼくだって ほら暗室、作ってもらったし。 」

「 ・・・ そうねえ 

 

カメラの仕事を始めてから ジョーは地下の隅ッこに暗室というか

彼の アトリエ を作ってもらった。

 

「 − ここなら光も入らんし。 現像には最適じゃろう?

 シンクを置いたから水の使用もオッケーだ。 」

博士は 少々得意そうだ。

「 うわ〜〜 すげ〜〜 ・・・ 」

「 お前の仕事部屋、 そうさな アトリエ にしたらいい 」

「 アトリエ? えへ・・・ な なんかアーテイストみたいだ〜 

「 カメラマンは立派なアーテイストだと思うぞ 」

「 ・・・博士!  ありがとうございます! 」

「 いやいや ・・・ 場所に余裕がある、いろいろ好きに使いなさい 」

「 はあい ありがとうございます〜〜  

 

 以来 ジョーは地下の部屋に籠ることが多くなっている。

 

 

「 あの奥にさ、ロフトがあるんだ。 使ってるとこもあるけど

 まったく空いてるトコもある。 あそこ ・・・ 改築しようよ 」

「 え ・・・ か 改築?? 」

「 そ。 ほら 床とか・・・ 換えて 

 おっきな鏡 張って え〜〜と あの棒を 

「 壁にバー ね!  ・・・ でも 大変じゃない? 」

「 任せてよ〜〜  ぼくだって さいぼ〜〜ぐ!

 チカラ仕事は 御手のモノ さ。 」

「 あ ・・・ 」[

「 床の材料とか 鏡の大きさとか ・・・ ぼく わかんないから

 きみ担当してくれる? 」

「 え い いいの? 」

「 もっちろ〜〜ん♪ へへ〜〜 地下はぼく達の仕事場所 になるね 」

「 まあ・・・ そうね そうね〜〜〜 

 じゃあ わたし、床の材料について調べるわ! 

 あと・・・ 鏡 ・・・ やっぱりネットかしら 」

「 そうかも ・・・ あ! そうだ!

 下の海岸通り商店街にさあ  ガラス屋さん あるじゃん?

 あそこで聞いてみるのも いいかも 」

「 あら そうね〜 あの店先に三毛猫さんが寝てるとこね 」

「 そ〜そ〜  おばあちゃん が店番してるだろ 

 あ あの猫なあ  み〜さん っていうんだ 」

「 あら 詳しいのね 

「 うん ・・・ 通り掛かった時にね ぽん・・・って

 猫さんが飛び出してきて ・・・ 抱っこしたんだ 」

「 あ〜 それで。  わたしもその猫さんに会いたいわ。

 早速 行ってみるわね 」

「 多分ね 鏡とかも扱ってると思うんだ。 」

「 猫さん目当てに行っちゃう♪ 」

「 なんか楽しいなあ〜  」

「 うふふ・・・ ジョー ありがとう! 」

「 ど〜〜いたしまして。  あ! そうだそうだ・・・

 音響機器とかも必要だよね 」

「 おんきょうきき? 」

「 ウン。 ほら ・・・ CDとか使うだろ? 音楽! 」

「 あ  そうだわ・・・ 」

「 任せて!  使い易いの、物色してくる〜〜 」

「 ・・・ あのう ・・・ 高くない・・・? 

「 アキバとかで見てくるよ 今ね そんなに高くないんだ。 」

「 そうなの?  ・・・ バレエ団だと ずっとピアノなのよ 」

「 今 生ピアノってすっげ贅沢かもな〜 」

「 ふうん ・・・ お願いします! 」

「 おっほん! 任せてくれ〜〜 」

 

   あははは   うふふふ ・・・ 明るい笑いが弾ける。

 

「 うふふ あ!  晩ご飯の支度しなくちゃ!

 その前に〜〜〜 オヤツ! ねえ 焼きお握り って 好き? 」

「 わっははは〜〜〜ん!  大 大 大すき〜〜〜 」

「 じゃ すぐに作るわ 」

「 あ じゃあ ぼく 洗濯モノ、取り込んでくるね 」

「 あ! まだだったわ〜〜〜 お願い〜〜〜 」

「 ほい お任せ! 」

ジョーは そのまま外へ フランソワーズは中に引っ込んだ。

 

さて 改築は博士も喜んで協力してくれた。

ジョーは どんどん作業を開始した。

彼は張り切って 床やら壁の改造に着手した。

音響も最新のモノをセットアップ。

 

そして 今日 フランソワーズに テスト使用 を

頼んだのだ。

 

「 ん 〜〜〜〜 

フランソワーズは ぐるり、とこの新しい空間を見回した。

「 あ ・・・ なにかリクエストがあれば 

 どんどん言ってクダサイ。  ご遠慮なく 」

「 もうもう すっご〜〜〜く満足!

 ホント この床 ・・・ いいわあ〜〜 

トントン ― 彼女は床を軽く蹴る。

「 三面とも鏡って 信じられないもん♪

 素敵よぉ〜〜  バーの位置、 注文通りだし。

 音もねえ  自習の時に最高に便利だわ!

 ものすごく嬉しい! 」

「 そっか ・・・ あ〜〜〜 よかったぁ  」

「  あ もうひとつだけ お願いがあるの  」

「 え な なに? 」

「 えっとね〜〜 そこに片膝突いて こう〜〜 腕、

 出しててくれる 」

「 あ  う うん いいけど ・・・ 

 こ こう?  こんな感じでいい? 」

「 そうそう それで じっとしててね〜〜 

彼女は数歩 離れると ― 

 

   とん とんとん ・・・ 軽い足取りで近寄ってくると

 

「 ・・・! 」

彼の腕に手を置き 片脚をアタマの上まで揚げた。

 

   う う うわああ〜〜〜〜〜〜 

   こ こんどは な なんだ〜〜〜

 

「 じっとしてて! そのまま! 」

厳しい声が飛んでくる。

「 は ・・・ はい ・・・・ うわ おも・・・ 」

「 ん〜〜〜 ・・・っで  っと! 」

 

  ぐん! 

 

彼女は彼の腕を強く押し身体を起こすと くるくる回った。

「 う っ ひゃあ ・・・ 」

「 ・・・ ん〜〜  ここでサポートしてもらえば ・・・

 う〜〜ん タイミングがなあ 」

「 ふ フラン? ごめ ・・・ ぼく 余計なこと、した? 」

ジョーは 立ち上がりおろおろしている。

「 う〜〜ん・・・・ あ え? 」

「 あのう きみの練習のジャマした ・・・? 」

「 ・・・ え  そんなこと、ないわよ なんで? 」

「 あの・・・ なんか考えこんでるから ・・・ 

 そういえば 玄関でも壁に掴まって脚、上げてたけど・・・ 」

「 あ! ああ そうね そう見えるわねえ〜〜

 そうだわよねえ〜〜 」

「 ??? 」

ジョーはますますクエスチョン・マークの海だ。

「 詳しく説明してないものね、わからないわよねえ 

 あのう ちょこっと言ったけど 今度の舞台、

 一応 < 勉強会 > なんだけど パ・ド・ドゥ なのよ。 」

「 ぱ・・・?   あ  確か 男と一緒に踊るって ・・・ 」

「 そ! 男性と組んで踊るの。 

 だからね〜〜 相手とタイミングを合わせないとダメなの。

 それに リフトとかのテクニックもあるしね 」

「 ・・・ あ それで ? 壁につかまったり

 ぼくの腕 押したりしてるんだ ? 」

「 そうなの。  自分でできるだけ練習しとかないとね。 

 驚かせてごめんなさいね 」

「 ううん ううん!  役に立つこと、あれば何でも言って! 

 へへ ぼく、頑丈だから きみを持ち上げるのは カンタン ・・・ 」

「 ありがと、本当に・・・

 このレッスン室、作ってもらえて もう〜〜 最高! 」

「 えへ  ・・・ ぼくもなんか楽しかった! 」

「 あれこれ手を貸してもらって 本当に嬉しいわ。 」

「 あ  は  いつだって !

 え〜と ・・・ いつかねとふりの古い映画で見たけど ・・・

 こうやって ・・・ お手をどうぞ? って さ 」

ジョーは 気取った風に彼女の前に手を差し出した。

 

    あらら ・・・ 珍しい〜〜〜

    うふふ でも 嬉しいわ!

 

フランソワーズは 満面の笑みで手を差し伸べてから

腰を屈め 優雅に会釈をした。

「 メルシ〜〜 ムッシュウ?

 わたし ・・・ 頑張っちゃう〜〜  

「 公演、見に行っていい ? 」

「 もちろん!  ああ ますます張り切っちゃうわあ 」

「 ・・・ あの さ。 

 ぼく いつかきみの踊り ・・・ 撮りたい ! 」

 

 

Last updated : 11,17,2020.            index      /     next

 

 

**********   途中ですが

やりたいコト、 好きなコト が 仕事 になる・・・って

ものすご〜〜〜く ラッキー だけど

半面 めっちゃ大変なコトですよねえ ・・・